第二の「西山事件」化を目論み?毎日新聞攻撃を続ける大阪維新の会

2020年10月26日の毎日新聞の「大阪都構想」についてのこの記事。

大阪市4分割ならコスト218億円増 都構想実現で特別区の収支悪化も 市試算 - 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20201026/k00/00m/040/061000c

 記事の最重要なポイントは「コストが200億円増える試算が出た」ことではなく、「200億円コストが増える試算を『大阪市が出していた』」ことである。

そもそも賛成と反対で真っ二つに分かれて激論がかわされている「大阪都構想」問題において、両陣営のコストの試算結果が全く異なるものになることは当たり前である。

両者から出てきた試算に対して両側から「その試算は正確ではない。条件が間違っている。自分たちの試算が正確だ」などと批判し合うのを見て市民はどちらかを選ぶのだ。

この毎日新聞記事によれば「200億円増」の試算は1年前にすでに大阪自民が出している。大阪自民は、この時に大阪市でも同様の条件で詳細な試算を出すよう強く求めたが拒否されたという。

この記事は、そんな経緯の中で、大阪市の財政局が「200億円増」の試算を出していたことが分かった、という内容が書かれている。大阪市は、都構想賛成の維新の支配下にあるので、その市が都構想反対に有利になるかのような試算を出していたことがニュースなのだ。

毎日新聞の後追いでNHK大阪朝日新聞が同様の内容を記事にしている。いずれも大阪市の財政局に取材をかけたものである。

市分割でコスト218億円増試算|NHK 関西のニュース
https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20201026/2000036511.html

 この毎日新聞の記事に関して、松井市長、吉村知事、橋下前市長ら維新関係者は一斉に「誤報」「捏造」「虚偽」だとして攻撃を始めた。

しかし「200億円増」は大阪市財政局が言い出したことである。毎日新聞はそれを聞いて記事にしただけだ。情報が間違ってたなら本来は市長が謝罪するべきだ。なのに毎日新聞が攻撃されている。

大阪市は翌日の27日に、報道は誤報であるとするプレスリリースをHPに掲載した。

大阪市:新聞報道についての大阪市の見解について (…>大都市制度>お知らせ)
https://web.archive.org/web/20201027125221/https://www.city.osaka.lg.jp/fukushutosuishin/page/0000517765.html

>この度は、財政局が試算した前提から外れ、特別区設置に伴うコストが増加すると受け取られるような報道がなされ、

松井市長は、ある前提で試算した結果なのに、その前提が毎日新聞記事に書かれておらず、それが捏造・虚偽であるとして批判していた。

しかしこのプレスリリースに書かれている試算の前提は毎日新聞の記事にも書かれているし、この試算が絶対であるとも書いていない。仮に読者が「この記事の試算は他の試算と比べて信用がおける」と思ったならば、それは毎日新聞が報じたからではなく、都構想を進める立場の大阪市自らが出した試算であるからである。

市長は、試算が正しくないと言いたいのなら、そのように言えばいいだけである。試算はあくまで試算である。「捏造された試算」というのは、試算に使ったデータの数字自体が捏造されていた場合等に限る。毎日新聞大阪市に取材して入手した試算結果を報じているだけなので「毎日新聞が捏造した試算」であるはずがない。

普通の人なら記事を読んでこのようなことは普通に理解できるので、松井・橋下コンビで突発的に始まった「毎日新聞捏造」キャンペーンはあまり広がらず、方針転換が始められる。

 

大阪市は、27日にHPに発表していた、報道は誤報であるとする見解を削除し、新たな見解を財政局名義で発表した。

大阪市大阪市財政局が報道機関に提出した資料について (…>その他 財政関係資料>その他)
https://www.city.osaka.lg.jp/zaisei/page/0000517743.html

この度は、財政局が誤った考え方に基づき試算した数値が様々に報道されたことにより、市民の皆様に誤解と混乱を招く結果になりました。まことに申し訳なく深くお詫びいたします。

「200億円増」の試算が間違っているとする説明はほぼ同じであるが、前回の見解では、報道機関が勝手に誤報したと書かれていた部分が、「財政局が誤った試算をした」と市当局の責任とし、謝罪の言葉が入っている。

毎日新聞が捏造も偽造も誤報もしていないことが、これではっきりした。

と思いきや、一方で、大阪市トップの松井市長は29日、「報道機関の誘導に従ってつくったあり得ない数字。虚偽だった」だと会見で述べた。

松井市長「虚偽だった」218億円増の財政局試算に - 社会 : 日刊スポーツ
https://www.nikkansports.com/general/news/202010290001028.html

このように都構想賛成派は、試算はあくまで大阪市が作ったが、報道機関(毎日新聞)の誘導によって虚偽の試算を作らされてしまった、と主張を始めた。

この主張は1971年の「西山事件」と被らせようとする意図があるのではと思う。西山事件は日米の密約を不適切な取材手法ですっぱ抜いたとして刑事事件となり有罪判決となったもの。記事は正確なもので日本の将来にも関わる内容であったが、世間は不適切な取材手法にばかり注目を集めさせられ、ゴシップ的な情報消費しかなされなかった。

今回も同じように、毎日新聞記事は誤報ではないが、不適切な方法で大阪市職員に取材し、虚偽データを作らせた、などと吹聴し話をそらすつもりなのかと考える。

大阪市はメディアに出した情報が間違っていたと広報しており、松井市長こそ市民に対して謝罪する立場にあるが、まだ一度もしていない。