読売・毎日の「石破退陣」誤報問題は、間違えなかった朝日・共同など他メディアに注目すべき

毎日新聞が7月23日午前11時に号砲を鳴らした石破退陣報道。

 

石破首相、退陣へ 8月末までに表明 参院選総括踏まえ | 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20250723/k00/00m/010/057000c

 

「スクープ」とタグがつけられて電子版にアップロードされ、その日の夕刊では一面トップ記事になった。

 

続けて、読売新聞が12時50分に月内に石破首相が退陣表明するという記事を出し、街頭で号外まで配布した。

 

石破首相退陣へ、月内にも表明する方向で調整…関税協議の妥結踏まえ意向固める : 読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20250723-OYT1T50070/

 

毎日も読売も「石破首相が退陣する意向を周辺に伝えた」という内容は同じだが、細部に違いがあり、読売が23日の記事で「月内(7月内)にも退陣表明する」と即時退陣すると記事にし、その緊急性から号外まで配ったのに対して、毎日は「8月末までに退陣表明する」と期間に猶予があり、更には「時期は前後する可能性はある」とまで注釈をつけて断定を避けている。

 

毎日新聞は、23日夜に「なぜ石破首相は参院選後に退陣意向を固めていたのに続投意向を表明したのか」という、石破首相が退陣意向を否定することを予期した先回り記事まで発表していた。

 

「死に体で交渉できぬ」 石破政権が“退陣シナリオ”秘した事情 | 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20250723/k00/00m/010/260000c

 

アメリカとの関税交渉やTICADなど首脳外交の日程が詰まっている間は退陣発表しない、しかし石破首相は退陣を固めている、という内容である。

 

毎日新聞は、当初の記事から見出しだけは仰々しかったが、記事の中身は言い訳だらけで曖昧な記述が多く、通常の政局読み物記事と変わらない。「7月末まで」と期限を区切って退陣すると報じた読売新聞とは違いがあった。

 

双方の記事とも、石破首相が退陣の意向を否定した時点で誤報となり、9月に入り読売・毎日ともに釈明記事を発表した。

 

まずは読売新聞が9月3日に検証記事を発表した。

 

首相「辞める」明言、読売「退陣」報道を検証…石破氏が翻意の可能性 : 読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20250902-OYT1T50163/

進退、揺れ動く首相…石破氏が虚偽説明 読売「退陣」報道を検証 : 読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20250902-OYT1T50187/

 

内容は、「石破首相が『周辺に』『関税合意をしたら辞める』と語っていたことは事実。だから関税合意後に号外を出した。それを否定した石破首相が虚偽発言をしている」というものだった。記者が自ら聞いた事実ではなく、石破首相の「周辺」から聞き取ったことを「事実」と主張している。

 

 「周辺」からの聞き取り内容を報道するのは政治報道の定番だから否定はしない。しかし、それを「スクープ」や「号外」にするのは間違い。そういう会話が仮にあったとして、「周辺」との会話の文脈や雰囲気が全く分からなければ、発言の真意も分からないではないか。

 

読売新聞が石破首相本人に取材したのは記事発表の直前の、この部分だけである。

本紙は、首相に心境の変化がないかを改めて取材したところ、首相は「今日は発表しない」としたものの、退陣の意向については「変わりはない」との認識を示した。

 

この石破首相の回答部分のカギカッコに「退陣」の文字は入っていない。この発言内容が「退陣」のことを指すとは思えない。アンジャッシュのコントのように、質問する記者と回答する首相との間で認識の齟齬が起きたと見られるのが普通ではないか。しかし、読売新聞は、首相本人が答えたから「退陣意向」と記事にしたと責任転嫁をする。

 

読売新聞の検証記事では、なぜ「7月末までに退陣表明」という期限を断定できたかは全く書かれていない。「毎日新聞が『退陣へ』記事を出したので、我が社も号外を出した」と書かれているが、毎日新聞は「8月末までに表明」という記事である。なぜ読売は「7月末」なのか。誰が「7月末」と判断したのか。検証がない。

 

毎日新聞も、石破首相が党内の辞任圧力に耐えきれずに辞任した日の9月7日夜に、釈明記事を発表した。

 

「首相、退陣へ」報道 説明します | 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20250907/k00/00m/010/286000c

「8月末まで」という期間の長さについては、政権幹部から首相がすぐに退陣表明すると8月が政治空白になるので、すぐに表明しないという話を聞いたからだと言う。しかし、「すぐに退陣」でないならば「退陣へ」なんて見出しをつける必要はなかった。

 

「首相本人が『政治空白』を懸念して報道を否定することは想定していた。しかし、記事の中で説明しておらず、読者を混乱させる結果となってしまった」とも釈明した。

 

毎日新聞は当初から反論された場合の言い訳をいくつも記事に盛り込んでいた。だから退陣発表は「8月末まで」という長いスパンを取り、「前後する可能性はある」という、どこぞの予言本のような曖昧な書き方をしていた。問題があったのは見出しや「スクープ」のタグをつけ方である。

 

読売新聞のほうのはてなブックマークのコメントにこういうものがあった。

gryphon 「石破氏はX日○○と言った(だがそうしなかった)」は捏造でなきゃ、取材のファクトだろうから誤報と言われたらこれ出す権利はある。で「そんな発言したなら仕方ない」か「それ込みで判断すべきだ」は「評価」部分

しかし釈明記事を読めば、取材のファクトは「石破氏はX日○○と言った」ではなく、「『周辺』は、石破氏がX日○○と言った、と言った」であることが分かる。そこは新聞読者は勘違いして読売の策に引っかかってはいけない。評価は「周辺」の確度。

 

読売新聞や毎日新聞誤報記事が出る前後、他のマスコミも四六時中「石破首相の辞任はいつになるか」という報道をし続けていた。しかし、他のマスコミからは誤報は出ていない。読売・毎日の誤報に後追いすることもしなかった。そこはもっと注目されるべきだと思う。

 

共同通信は、毎日新聞が「退陣へスクープ」した直後の正午前に、「首相、退陣不可避」という記事を発表した。

 

【速報】石破首相、退陣不可避な情勢|47NEWS(よんななニュース)
https://www.47news.jp/12904252.html

 

もろもろの取材で、石破首相の退陣が間違いないと記者は思ったのだろう。しかし「退陣へ」「退陣意向」などとは書いていない。

 

朝日新聞は、23日午後に「関税合意で退陣論、強まる」という記事を書いたが、「退陣へ」「退陣意向」などとは書いていない。

 

首相の退陣論、自民党内で強まる 続投理由にした関税交渉の合意で [石破政権][参院選参議院選挙)2025][自由民主党自民党)]:朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/AST7R14YKT7RUTFK004M.html

 

ほかのマスコミも同じく。読売・毎日が「号外」した記事の翌日以降も、後追いで読売・毎日に同調して「退陣へ」「退陣以降」と書いたメディアはなかった。

 

7月28日、朝日新聞記者が記事の舞台裏を語り合うYouTubeチャンネルで、読売・毎日の「退陣へ」報道について話す動画が投稿された。

 

【石破首相進退】「退陣へ」報道と実態 「びっくりするくらい」続ける気満々【報談】 - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=-_Ht0cKBCZQ

 

朝日新聞政治部記者の冨名腰隆氏は、読売・毎日の「号外」「スクープ」を読んで後追いで周辺取材を行ったが、石破首相の「退陣意向」はまったく確認できなかったと話す。首相周辺からは「やる気まんまん」という話しか確認できなかったので、「退陣へ」記事の後追いはしなかったという。

 

これが普通の政治部記者が記事を出す時のファクト確認なんだろう。朝日新聞だけでなく、他のマスメディアも同じ取材結果になったから後追い「退陣意向」記事は出さなかった。

 

動画で朝日記者が語っているが、首相が「辞めざるを得ない状況」だと報じるのと、首相が「自ら辞任する意向だ」と報じるのとでは全く違う裏取りが必要なのだ。

 

読売新聞と毎日新聞は、「周辺取材で石破首相がこんな『辞める』発言をしていたから誤報した」と釈明しているが、読売・毎日が聞き取った「辞める意向」発言を見比べると、似たような内容が少なくない。おそらく両社が取材した「周辺」は同じ人物が多いのでは?と考えるところがある。だとすれば、この「周辺」が読売・毎日記者だけに情報を流しているとは思えず、他のマスコミ記者も、同じ「周辺」が流した「辞める意向」情報を獲得しているはずである。

 

しかし、誤報したのは読売と毎日だけだった。読売と毎日が「これだから間違えた」といくら釈明しても、間違えなかったメディアが多数ある、というカウンターが出来てしまう。

(もちろん「間違えなかった人がいる」カウンターが使えるかどうかはケースバイケースだが)