田母神氏の「敵」はもういない。

NHKクローズアップ現代を見た。田母神論文の特集だ。
武士の情けか、田母神論文の中身の正誤については全然やらなかった。
田母神氏のインタビューも放送されたが、一瞬で終わってしまった。もしかしたらNスペあたりでもう一度特集するのかもしれない。


田母神論文については「日本は侵略国家でなかった」と主張している田母神氏であるが、世間の批判に晒されてからは、実際この主張を取り下げている。
少し前の日本テレビで放送された森本教授とのインタビュー対談の中では、森本教授の淡々とした論文の間違いについての指摘に対して、田母神氏は答えに窮し、「侵略はほとんどなかった」「一部はあった」との答え。
その上で田母神氏の主張の要旨は、「西欧列強をはじめ諸外国でも日本以上に侵略行為をしていた、しているのに、何故日本の侵略だけが悪者扱いされるのか!?」ということだ。
更迭されてから、田母神氏はテレビで論文の内容よりも、この言葉をいたるところで吐いている。


どの国も残虐非道の侵略行為を行ったし、もちろん日本も例外ではない、と思ってる私にはいまいちピンとこない。結局田母神氏は一体誰に向かって攻撃しているのか?
田母神氏が主張の相手としているのは、力を持っていた時代の左翼団体、当時自衛隊の武力を旧軍と同一視し、さんざん罵倒していた人たちだろう。自衛隊に対し、いろんな圧力がかかっていたに違いなく、ひねくれてしまうのも分かる気がする。
しかし、今やそうした左翼団体は力を激減させ、大震災以後、救助活動、復興活動の国内外問わず自衛隊は活躍し、世間に認められるようになった。
田母神氏がいくら声高に主張しても、「敵」はもはやおらず空を切るだけである。


田母神氏は他に、「戦前の日本軍の行為が「侵略」などと悪し様に言われると、現役自衛官の士気が落ちてしまう」と繰り返し主張している。
「ちょっとそれはおかしすぎるだろ」と私は思ってて(誰もが思ってるだろうが)、今回のクロ現には、なぜ士気に関わるのか、ほんとに自衛官の士気に関わるほど旧日本軍と自衛隊が一体視されてるのか、田母神氏の思想が現役自衛官の間でどんだけ広まってるのか、というところに期待したのだが、はっきりとした結論は得られず、自衛隊員の思想については曖昧にぼかした印象となった。


クロ現で分かったことは以下の通り。
・現役幕僚長や自衛隊幹部は田母神論文・発言に自衛隊信用失墜の危機感を抱いている。
防衛大学校校長はやわらかい物言い。生徒に対して「視野を広く」「服従は誇り」
歴史観の懸賞論文を幕僚幹部を通じて広く募ったなんて意味が分からないとの、自衛隊幹部も。
・アパ懸賞論文に応募されたほかの自衛官の論文は、田母神論文のような歴史観に関するものばかりでなく、旧日本軍の戦略に関する分析なども多数。
・田母神氏が更迭されたとき、「なぜこんなことで」という動揺が自衛隊内部で広がったが、しばらくたつと「よく考えると更迭されて当たり前だな」と落ち着きを取り戻す。


このようにクロ現では田母神氏の主張が特に自衛隊内部の主流ではないという印象となったが、一方で読売テレビそこまで言って委員会では、田母神氏と一緒に、陸上自衛隊海上自衛隊の元幹部が出演し、「田母神氏の言ってることは、まさにその通りで正しい」などと言っていたので、どんだけ受け入れられてるのかは、やはり曖昧模糊しているままだ。NHKでも読売テレビでも、テレビでアピールしなければいけないほど、お互い均衡しているのだろうか。一般の現役自衛官の言葉が聞きたい。


防衛大学校に田母神氏の肝いりで「歴史観」の授業が作られ今まで教えられてきたことが、田母神氏の思想の自衛隊の中での力の大きさを物語るし、今回の騒動であっさり「歴史観」の授業やめます、となったのも自衛隊の中で特に重要視されてなかった、ということでもあるのでやはりよく分からない。
そもそも自衛隊の仕事に「歴史観」などまったく重要でなかったのだろう、と思う。