『ソロモンの偽証』の映像化3作品を全部見た

宮部みゆきの小説『ソロモンの偽証』が大好きなんだけど、最近になってようやく2021年のWOWOW版の連続ドラマを視聴し、映画版・韓国ドラマ版・WOWOW版と映像化された3作品を全て視聴することができた。

 

小説版は単行本で3分冊、文庫本だと6分冊されており、分厚い本が多い宮部みゆき作品の中でも大長編に入る。それほど長い小説なので、映画版はもちろん、連続ドラマでも全てのエピソードを映像化にすることはできておらず、どの作品も原作改変がされているが、作品ごとに違いがあって面白い。

 

『ソロモンの偽証』は2012年に刊行された小説だが、物語の舞台は1990年という設定である。

 

2015年に前後編で放映された映画版は、小説そのままに1990年が舞台となった。登場人物が通う学校も原作と同じく公立中学である。バブル崩壊前夜の街の様子がちゃんと映像で作られていて見どころとなっている。

中学生役は全員オーディションで選ばれており演技もみずみずしい。主演はこの映画で芸能界デビューをしており、役名を芸名にさせるという熱の入れようだ。三宅樹理役の演技もいい。裁判シーンのクライマックスの神原和彦の演技もいい。

しかし、原作では主役の1人である野田健一が完全にその他大勢のモブ役にされており、そこが大きな不満である。

小説版は、事件編・決意編(裁判決意から事件捜査)・裁判編の3部作だが、映画では事件編と決意編が前編、裁判編が後編となってるので、どうしてもカットされた場面が多く、裁判前に生徒たちが裁判準備を試行錯誤するシーンがほぼ全部削られている。文化祭では文化祭の準備が一番楽しいように、準備の様子こそじっくり描いて青春を映し出してほしかった。そこが一番見たかったのだが残念。

原作の主人公の藤野涼子は、容姿端麗・頭脳明晰のスーパーヒロイン中学生であるのだが、映画版ではその設定はなくなっている。これはあまりがっかりしていない。

 

2016年に全12話で放送された韓国ドラマ版は、舞台を韓国にし、時代も現代に改変されている。当たり前だが登場人物の役名も全て韓国人名へとローカライズされているが、わかりにくいので、ここでは原作小説名に変更して記載する。

登場人物たちが通う学校も公立中学ではなくて、私立高校であり、韓国の厳しい受験事情がシナリオに反映されている。最近は分からないが当時の韓ドラでよく言及されていた財閥批判めいた要素も含まれている。仲間が集まってのチキンパーティの場面もあり、韓国文化シーンが楽しい。

意外にも物語の冒頭は一番原作に忠実になっている。柏木卓也の遺体は野田健一が発見する。野田健一の家庭問題の苦悩をちゃんと描いている。藤野涼子もスーパーヒロイン設定そのままで、双子の姉妹もいる。裁判長の井上康夫や少年課刑事の佐々木礼子の存在感が高いことも高ポイントだ。大出俊次と柏木卓也のトラブルシーンを何度も流す演出もいい。

ただ神原和彦と柏木卓也の関係性や事件の核心が、いかにも韓国ドラマらしい設定に改変されているところが気になる。こういうドロドロの愛憎劇は表面的にその国の文化を知っているだけでは理解が追いつかなそう。原作の残酷なシーンが改変され、生徒には全員救いがあるラストになっているのは賛否を呼びそうだ(自分は賛)。あとメインキャストの大物俳優がMeToo告発を受け活動停止してしまってる。ドラマで印象に残る人だっただけに残念。

 

2021年に全8話で放送されたWOWOWドラマ版も、韓国版と同じく現代の私立高校を舞台に改変されている。現代らしく、噂のやり取りにLINEが使われ、迷惑YouTuberも登場する。見どころは各キャストの熱演だ。どのキャストも迫力がある。1話の三宅樹理とかほんと怖かった。舞台を現代にしてるからイジメや噂はLINEで広がる。藤野涼子が何もせずとも大出俊次にメッセージを送れていたのもクラスLINEがある現代ならでは。現代日本のイジメを扱う時に避けては通れない「第三者委員会」もちゃんと出てきて、なぜ第三者委員会では真相解明として不満なのかも言及されていた。

野田健一は映画と同じく脇役の1人に改変されていた。藤野涼子はスーパーヒロイン設定であるが、1人っ子である。仲間集めのシーンも弱い。重い場面が続き各キャストとも熱演はするのだけど、平静の演技場面が無いからくどい印象を受ける。大出俊次は原作では粗暴で頭が悪い不良というイメージなのだけど、ドラマではサイコパス過ぎるダウナー系キャラになっていてついていけない。三宅樹里との因縁もより残酷なものに改変されており、内容が「いじめ」に終わらずかなりヘビーになっていた。

 

この3作品を良かった順に並べると、

韓国ドラマ版>>>前後編映画版>>>WOWOWドラマ版

となる。

韓国ドラマ版がトップになった理由の一番は、野田健一の扱いの良さに尽きる。

やはり『ソロモンの偽証』で一番大切に扱わなきゃいけないのは野田健一である。原作は、野田の成長を見届ける小説なのだ。漫画の『ダイの大冒険』のポップと同等の存在が野田健一。これをモブにしてはいけない。

次に映画版。これは1990年の中学が丁寧に作られていて素晴らしいと思う。

WOWOWドラマ版は、ヘビーなサスペンス演出を入れすぎていて、少し自分が見たかった『ソロモンの偽証』とは違っていた。

 

原作刊行後10年以上過ぎて、もうメディアミックスもされないかもしれないが、今後『ソロモンの偽証』のコミカライズやアニメ版ができることを期待したい。