NHKスペシャルの過重労働特番を見て

昨晩のNHKスペシャルでは、一般人討論形式で過労問題がテーマとなって議論されていた。電通で女子新入社員が過労自殺した件があったからだろう。「残業を完全になくしていくためには」というテーマが重点的に話し合われ、その中で「命を守るために」という言葉が錦の御旗として何度も繰り返し使われていた。
経営者の立場として参加した男性が「そうはいっても時には残業も認めてくれないと仕事の成果が上がらない」などと意見を述べると、女性出演者が「命とどちらが大事なのか。過労しないと成果が上がらない仕事は社会にいらないのでは…」と、ここまで直接的には言っていないが、同等の内容のことを述べかけた(言い切る寸前で言いよどんだ感じだった)。
この女性は「残業させる会社は社会に必要ない」と言う。だったら更にこう言い換えたらどうだろう。「残業させる会社に在職し続ける社員は社会に必要ない」。
なぜ過労自殺するほどの残業がある会社に、女性の言葉を借りるなら「社会に必要ない」会社に、勤め続けてしまったのか。普通の人間なら自殺する前に逃げ出す。学校でのいじめに逃げ場所のない子供ではなく、社会人で大人の問題なのだ。逃げることは可能だ。にも関わらず、居残り続けて体を壊したり自殺してしまう。これは企業の責任だけとは言い切れない。本人の責任だ。女性の言葉そのままで表現するなら、こうやって体を壊したり自殺してしまう人間は社会人失格だ。
NHKの番組では、過労がまかり通る原因として、単に企業批判の他に「顧客による無茶な要望が多いから」「過剰サービスを求める消費者がいるから」と、外部の問題を追及していたが、「こうしたブラック企業に勤め続ける者たちがいるからブラック企業は存在し続ける」という根本原因はまるっきりスルーされていた。
過剰サービスを求める客の要望を叶えるために、社員に過重労働をさせる企業で、体を壊してまで働き続ける馬鹿な社員がいるから、残業はなくならないという点を誰も述べない。
過重労働をさせられている社員が、その企業からどんどん退職し続けていけば、過剰サービスを求める客の要望に応えることはできなくなり、普通の要望すらこなせなくなり、その企業は潰れていき、自然に社会からブラック企業が淘汰されていくはずだ。ブラック企業がなくなれば、社会の過剰なサービス競争もなくなっていく。
こういう意見には、反論はもちろん出てくるだろう。「辞めたって転職先がない」とか、「生活はどうするのか」とか現実的なことを述べてくるのだろう。その通りで、結局は、社員にとっても社会にとっても、体を壊してまで必要と思うから、残業する者も残業させる企業もなくならないのだろう。