博士課程修了とは何か

日銀の偉い人がショーンK(学歴詐称)してたという記事。

4月から就任した日銀審議委員の経歴疑惑に東大困惑│NEWSポストセブン
http://www.news-postseven.com/archives/20160509_409874.html

日銀審議委員に経歴疑惑 「博士号持っていない」と東京大学が結論づける - ライブドアニュース
http://news.livedoor.com/article/detail/11499224/

具体的には、「大学院博士課程で、博士論文審査に合格していない」のに、「博士課程修了」と経歴に書いていた、という問題提起がなされている。
しかし、記事のコメントには「博士論文を提出していなくても『博士課程修了』と経歴に書いて問題ない。それは一般常識だ。週刊ポストは無知すぎる」なんてコメントが多数見られた。
一般社会では、博士論文を提出しなくても、博士課程の単位を満たしていれば「博士課程『修了』」と経歴に書くことが常識になっているという。
ポストが取材した日銀担当者もそう答えている。

日銀広報課に質問すると、こんな答えだった。

「櫻井委員は東大博士課程を単位取得退学したと聞いています。HPにも『博士号取得』とは書いていない」

しかし、同じくポストが取材した東大大学院担当者は、こういう「一般常識」の意見を一蹴する発言をしている。

東大経済学部資料室の担当者が、博士課程にかかわる経歴の記載方法について、担当する同研究科庶務係に照会したところ、やはり「『博士課程修了』は、博士号取得済(博士論文が審査を通った)を意味する」とのことだった。東大資料室の室長代理は、こうも説明した。

「博士号を取得できなかった場合は、『単位取得退学』や『満期退学』といった言い方をします。櫻井さんはそれにあたるのでしょう。

「博士号」を取得しないかぎり「博士課程」は「修了」していないという認識だ。「博士号」を取得していない場合は「退学」と表記するのが正しい経歴の書き方という。



Wikipediaでも参照されていたが平成17年9月5日の文科省の大学院教育に関する答申では、この辺のことについてこう書かれている。

新時代の大学院教育−国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて−答申:文部科学省
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/05090501.htm

現在,課程の修了に必要な単位は取得したが,標準修業年限内に博士論文を提出せずに退学したことを,「満期退学」又は「単位取得退学」などと呼称し,制度的な裏付けがあるかのような評価をしている例があるが,これは,課程制大学院制度の本来の趣旨にかんがみると適切ではない。また,一部の大学においては,博士課程退学後,一定期間以内に博士の学位を取得した者について,実質的には博士課程における研究成果として評価すべき部分が少なくないとして「課程博士」として取り扱っている例も見受けられる。


新時代の大学院教育−国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて−答申 第2章−1−1−2
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/05090501/009.htm

文科省でも「博士課程の修了に必要な単位の取得」と書いており、単位の取得と「課程の修了」はイコールではないとしている。「博士課程修了」は「単位を取得し博士論文を提出する」ことであり、論文を提出していない場合は、「退学」であるとする。文科省は、この「単位を習得して論文を提出せず退学する」行為を、「満期退学」や「単位取得退学」と呼称し、制度的裏付けがあるかのように経歴に書くことを、ここで批判している。「満期退学」なんて言い訳せずに、単に「退学」とだけ書けと。ましては「修了」と書くとは何事だ、という話か。


やっぱり、博士論文提出せぶに博士号を取得していないのに「博士課程修了」と経歴に書く行為は、現在では非常識、でいいのではないかと思う。昔はそれが普通だったとしても、一般常識を訂正していくほうがいいのではないか。


ポストで「詐称」と指摘されていたのは櫻井眞氏という方だが、ネットではもう一人、岩田規久男日銀副総裁の「東京大学大学院経済学研究科博士課程修了」の経歴が怪しまれていた。同じく博士論文が検索しても出てこない、と騒いでいる書き込みがあった。こっちはまだどうなるか分からないが(検索データベースにインプットされてないだけかも)、Wikipediaの「岩田規久男」の項目を見ると、経歴が「博士課程修了」ではなく、「博士課程退学」となっている。しかも履歴をチェックすると、「修了」から「退学」に変更されたのは、2016年3月1日と、かなり最近のことだ。週刊ポストが枕に引用した、文春がショーンKスクープ記事を出すより前のこととなる。この編集をした人物が「退学」に変更した根拠は特に書かれていないが、ポストと同じ問題意識で、博士論文を検索しても引っかからなかったことから「詐称」として「退学」に直したのかもしれない。



ネットでこの件の反応を読んでいたら、昔の大学院博士課程は単位習得の修了証明書というものがあり、博士論文合格の証明書とは別だったという書き込みがあった。そのため単位取得の修了証明書をもって、「博士課程修了」と書いたのだという。これが慣例なのか正式なのか。東大大学院の今の学則の「修了要件」は、博士論文合格が条件に入っているが、日銀幹部が在籍していた当時は、単位修得をもって「修了」と書かれていたのかもしれない。

(博士後期課程の修了要件等)
第6条 博士後期課程を修了するためには、第2条第5項に定める年数(専門職大学院設置基準(平成15年文部科学省令第16号)第18条第1項の法科大学院の課程を修了した者にあっては、2年)以上在学し、各研究科等の定めた所要科目、単位を修得し、必要な研究指導を受け、かつ、博士の学位論文審査及び最終試験に合格しなければならない。


東京大学大学院学則
http://www.u-tokyo.ac.jp/gen01/reiki_int/reiki_honbun/u0740334001.html

Bloombergがこの件を記事に。

BOJ Board Member Sakurai’s Credentials Questioned by Shukan Post - Bloomberg
http://www.bloomberg.com/news/articles/2016-05-09/boj-board-member-sakurai-s-credentials-questioned-by-shukan-post-inzlqn9n

桜井眞氏の1991年の著作の英語プロフィールには“received a Ph.D. in economics”と書いてあったと。経済博士号を取得していると海外は認知。一方、同じ著作の日本語プロフィールは「博士課程修了」と今と変わらずと。


日銀の英語プロフィールを見たら

completed a Ph.D. Program in Economics, The University of Tokyo


Member of the Policy Board : Mr. Makoto Sakurai :日本銀行 Bank of Japan
https://www.boj.or.jp/en/about/organization/policyboard/bm_sakurai.htm/

と現状はなっている。“completed a Ph.D. Program”で「博士号取得」ではない「博士課程修了」を外国向けに表している。そもそも博論合格しておらず、課程修了していないのだから、これもおかしいのだが。



週刊ポスト本誌では、さらに取材をしていて桜井眞氏の修士論文まで調べあげたという。

さらに、「週刊ポスト」記者は同大経済学図書館に収蔵されていた『ケインズ的経済成長の動学的性格』と題された修士論文を“発掘”した。これがなんと、目次を含めて400字詰め原稿用紙たったの「4枚」、文字数にしてわずか1258字というシロモノだった。「週刊ポスト」はこの論文を財務省出身の小黒一正・法政大学経済学部教授に見せ、
「本当に本物ですか? こんな修士論文、見たことがありません」
「内容は当時の経済学で示されていた課題を要約しているだけで、(中略)学部生が書いた簡単なレポートのレベルです。(中略)私が指導教官なら通さない。東大がこんな論文で修士号を与えたこと自体、不思議でなりません」
 とのコメントを引き出している。


安倍官邸が送り込んだ日本銀行審議委員に「ショーンK氏」並みの経歴詐称と「小保方氏」ばりの杜撰論文が発覚|LITERA/リテラ
http://lite-ra.com/2016/05/post-2230.html

経済学修士論文の平均的な枚数は分からないが、週刊ポストでは同時代の他の著名経済学者の修士論文をチェックし、だいたい数百枚、少なくても70枚以上、グラフや統計の作図資料が添付されているのが普通としていた。将来日本銀行幹部になるような人物が、修士論文で原稿用紙4枚というのは異例とのこと。博士論文提出せずに博士課程単位取得退学することは当時一般的であったとしても、この修論のお粗末さなのに博士論文を書く能力はあったのか、という論調で、櫻井眞氏の日本銀行政策審議委員としての質を問題視していた。



衆院の委員会で、野党民進党がこの件を追及し、櫻井氏と岩田氏による一連の問題の釈明がされた。

桜井委員は「博士号は持っていない」「単位取得して中途退学となっている」と述べた。


修士論文については「四十数年前なのであまり記憶が定かでないが、4ページのものを書いた。東大紛争後のやや混乱期だが、きちっと修士号はいただいた」と説明した。


桜井氏の履歴については、大蔵省財政金融研究室の特別研究員など他の経歴についても、就任時期など細かな食い違いが多数あることが判明し、「色々と組織の移動が激しかったのを反映している。はなはだ申し訳ない」と釈明した。


岩田副総裁は、博士号は持たずに博士課程を修了した場合の経歴が「博士課程終了」だと東大側から就職時に指導を受けたと説明した。


日銀の岩田副総裁と桜井審議委員、「博士号取得せず」 | ロイター
http://jp.reuters.com/article/boj-sakurai-idJPKCN0Y10OQ

桜井氏は、原稿用紙4枚の修士論文修士号を受けたことを認めた。




衆院財務金融委員会での追及後、日本銀行は経歴表記見直しを検討へ

日銀の中曽宏副総裁は、10日の衆議院財務金融委員会で「博士号を取得している場合にはそのように明記している一方で、これまでの慣例上、単位を取得した人の経歴は『博士課程修了』としている」と説明しました。
そのうえで、経歴の詐称に当たるのではないかと指摘されたことを踏まえ、中曽副総裁は「表記の在り方が今のままでいいのか、適切に対応したい」と述べ、今後、表記の見直しも含めて検討する考えを示しました。


日銀幹部の経歴に「博士課程修了」 表記見直し検討 | NHKニュース
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160510/k10010515551000.html


経歴問題で厳しい態度をとっているツイートまとめ

日銀幹部の経歴問題について伊東乾氏のツイートまとめ「冗談でなく詐称」 - Togetterまとめ
http://togetter.com/li/973801