「菊の紋ニュース」と「論壇net」

以下の皇室記事がぷちバズっていた。

kikunomon.news

内容は、悠仁様がラノベの設定表を書いているというもの。

すでにはてなブックマークではフェイクだろうとの指摘は出ているが、一方で、まるっきり信じてないにせよ、嘘と断定せずに記事を楽しんでるコメントも多く見られる。

b.hatena.ne.jp

これがそれなりに社会に浸透したメディア(出版社系の週刊誌サイトやゴシップメディアサイト)の記事だったなら、「話を盛ってるにしろ嘘とまでは言えない」と判断して、自分も記事を楽しむこともできただろう。

しかし、素性も分からないサイトの記事を読んで楽しむことなんてできない。私はこのサイトをいわゆる「フェイクニュースサイト」と判断した。

記事の信憑性は、「誰が言ったか」というソースの確認ですべてが決まる。

冒頭の記事に関して「誰が言ってるか」を確認していく。

まず、「悠仁さまがラノベの設定表を書き続けている」と言っているのは誰か、それは「秋篠宮家関係者」だと書かれている。「関係者」という言葉を使って情報源をぼかすのは、既存のマスメディアでも常套手段だから問題はない。問題は、既存のマスメディアは過去の実績があるから「関係者」という言葉を使っても、本当に「関係者」に取材をしているという信用を獲得しているのに対して、「菊の紋ニュース」の「関係者」取材は、その信用が全くないことだ。

記事では、「秋篠宮家関係者」が、執筆者の菊の紋ニュースのライター「星川晶」に教えてくれたのだと書かれている。「星川晶」は、本当に「秋篠宮家関係者」に取材したのか?「菊ノ紋ニュース」はそれほど取材力のあるメディアなのか?

運営者、執筆者情報|菊ノ紋ニュース

「菊ノ紋ニュース」のサイトにはご丁寧に運営者と執筆者の情報が表示されている。運営者無記名のまとめサイトが多い中で、これだけでサイト内容を信用してしまう人が出てくるかもしれない。

執筆者陣も豪華だ。8人いる執筆者の略歴は「元女性週刊誌記者」「元週刊文春の皇室関係記者」「元毎日新聞社会部記者」「元女性誌の皇室担当記者」「元週刊誌記者」「BuzzFeedライター」等々。

これらの経歴が真実なら、確かに「秋篠宮家関係者」に取材できるツテもあるのかもしれない。経歴が真実なら。

執筆者8人の名前をGoogleで検索して、略歴通りのプロフィールがヒットしたのは、月刊Hanadaに記事を執筆したという「宮本タケロウ」ただ一人だ。毎日新聞BuzzFeedは署名記事を信条としているメディアなので「元毎日新聞社会部記者」や「BuzzFeedに記事を寄稿」という略歴が本当ならば、署名記事が各メディアに残っているはずであるが、検索しても彼らの署名記事が出てくることはない。「菊ノ紋ニュース」に書く時だけ用意したペンネームの可能性は残るが、過去の経歴を略歴ページに掲載してアピールしているのに、わざわざペンネームを使う意味が分からない。

「菊ノ紋ニュース」の「運営者、執筆者情報」のページの過去のアーカイブを読むと、「星川晶」のプロフィールの人物は、過去に「一場昭史」と名乗っていたことが分かる。そこで「一場昭史」の名前で検索してみてもBuzzFeedに執筆した記事を見つけることができない。

web.archive.org

運営者、執筆者情報 | 菊ノ紋ニュース

これだけでも冒頭の記事は、信用のおけない執筆者による、信用のおけない内容であり、「フェイクニュース」であろうと判断できる。

 

 

「菊ノ紋ニュース」はWhois情報を見ると、ドメインが2019年7月26日に取得されていることが分かる。Twitter開設日なんかを見ても、2019年7月に開設されたサイトだ。

開設当初から皇室(秋篠宮家)中傷の記事を量産していたため、皇室支持のネット右翼系ユーザーのウォッチ対象となっていたらしい。

大嘘吐きの菊ノ紋ニュースというブサヨ拠点【要拡散】 - BBの覚醒記録

昨年8月の時点で、運用者情報の所在地はレンタルオフィスだから社名も架空だろうと言われていた。

政府 皇位継承の現行順位は維持 : remmikkiのブログ (記事コメント - 1)

こちらのブログのコメント欄では、2019年7月27日の「菊ノ紋ニュース」開設直後の反応が見られる。「菊ノ紋ニュース」を批判するネット右翼系ユーザーは、このサイトは、その日に安倍総理が「皇位継承順位を変えない」と発表することを見越して慌てて開設したのだろう、とコメントしていた。そして「論壇net」の支店サイトであろう、とも推測している。

【得意技は】アンチ皇室爺婆の噂 9【分身の術】

こちらの5chの投稿でも「菊ノ紋ニュース」と「論壇net」の関係が開設直後から指摘されている。

 

「論壇net」とは、2018年下半期から、百田尚樹の「日本国紀」の内容のWikipediaのコピペ指摘まとめ記事で注目されたサイトだ。その後、「日本国紀」騒動が一段落した後で、皇室(秋篠宮家)中傷記事を量産し始め、ネットユーザーからドン引きされ、2019年夏までに閉鎖した。そのタイミングで登場したのが「菊ノ紋ニュース」ということになる。

 

「論壇net」は「ろだん」と名乗るハンドルネームの人物が運営していたが、それとは別に「論壇net」の記事執筆者の中には「宮本タケロウ」を名乗る人物もいた。「菊ノ紋ニュース」の執筆者に名を連ねる人物と同一である。

「論壇net」では「宮本タケロウ」が「月刊Hanada」に寄稿したことを大々的に記事にしていた。目次では百田尚樹と横並びで「宮本タケロウ」の名前が並んでいる。

web.archive.org

映画「主戦場」は"研究倫理違反" 論壇net、ついに月刊Hanadaデビュー!! | ろんだん

「論壇net」での「宮本タケロウ」の書いた記事タイトル一覧を見れば「菊ノ紋ニュース」の記事内容と全く変わらない。

宮本タケロウ | 論壇net

宮本タケロウ (@0PhS0i8HbCVrKV7) | Twitter

 

「菊ノ紋ニュース」は「論壇net」の後継サイトであることは間違いないかと思う。

 

「論壇net」のTwitterアカウントは、当初の「@rondan_net」から2019年8月までに他の名前に変更され、その後変遷を繰り返し、10月を最後にアカウントも閉鎖された。今では「@rondan_net」は10月16日に新しく作成されたアカウントが取得している。おそらく元の「論壇net」と同一ユーザーであろう。サイトの後始末も丁寧だ。

ユーザー:1051626632186720256のid使用履歴 | idtwi

 

現在の「菊ノ紋ニュース」のTwitterアカウント「@kikunomon_news」は、サイト開設とほぼ同日の2019年7月26日に作成されているが、作成当初は、初代編集長を名乗る「一条彩佳」名@ichijoayakaで作成されていた。当初から「論壇net」が狙っていた「男系支持」の著名Twitterアカウントに論争を仕掛けていた記録が残っている。

男系、女系天皇をめぐる谷田川惣氏と一条あやか氏とのやり取りまとめ - Togetter

 

「菊ノ紋ニュース」は他に「皇室ななめ読み!」と「こうろぜん」という、同じ論調のサイトを運営していることを公表している。

皇室ななめ読み!|皇室ニュース、口コミを深読み、裏読み

皇室ニュース「こうろぜん」|気になる話題の真相深堀

ドメイン取得日を見ると、「皇室ななめ読み!」は2019年9月17日、「こうろぜん」は2019年12月16日となっている。

サイト掲載の「運営者情報」では、「皇室ななめ読み!」と「こうろぜん」共に、「菊ノ紋ニュース」と同じ住所・社名が記されている。「編集長」も「菊ノ紋ニュース」の「記者」の名前が記されている。「皇室ななめ読み!」が「星川晶」(初代は「斎藤弘毅」だった)、「こうろぜん」が「一条彩佳」である。

 

他に、先に挙げたリンク先では、以前から「論壇net」を批判的にウォッチしていたユーザー、その文体や論調を理由として、いくつかの皇室ファンブログを「論壇net(菊ノ紋ニュース)」運営者と同一人物であると推測している。また、その正体週刊文春等で実際に皇室記事を書いている女性ライター氏ではないかとの憶測も披露されている。氏は、「雅子妃アゲ、秋篠宮家サゲ」の論調の記事や本を執筆することで、ネット右翼系の皇室ファンから批判を受けている人物のようだ。

 

この憶測が真実かは分からないが、「菊ノ紋ニュース」「論壇net」をめぐる「天皇皇位継承問題」の対立構図が見えてくる。天皇皇位継承問題は、「男系男子」絶対の人々と、「女性天皇」あるいは「女系天皇」を容認する人々が対立している。「男系男子」派は秋篠宮家の悠仁さま押しをするし、「女性(女系)天皇派」は現天皇の娘の愛子さま押しをする。というか後者の場合は、徳仁天皇雅子さま一家の押しだからこそ、「女性(女系)天皇」を容認するといった感じか。これだけ見れば「皇室ファン」同士の争いだろう。

 

問題なのは、それら「ファン活動」に「中傷」や「フェイク」が入り乱れるということだ。90年代末から2000年代にかけての右派論壇の雅子様バッシングは、現在の「菊ノ紋ニュース」の秋篠宮家バッシングと同等、影響力を考えればそれ以上に酷かった。各陣営の対立陣営への攻撃は、次の皇位継承まで形をいろいろ変えながら続くのだろう。そしてその後もまた、次の皇位継承を巡って新たな対立構図で、皇室ファン同士が争うのだろう。

 

最後に「菊ノ紋ニュース」でも「アノニマスポスト」でも、この手の「フェイクニュースサイト」がアクセスを集めてしまうことの弊害は、注目を集め人気サイトになることで、こういった低俗ニュースサイトに内部情報をリークしてしまう人が出てきて、「東スポがたまにスクープを記事にする」みたいに「嘘か本当かわからないけど、たまに凄い内部告発が掲載されるニュースサイト」といった形で、業界のフィクサー的な立場となり、すごい影響力を持ってしまうかもしれないことだ。そうなったら適当なフェイクやヘイトの記事ですら「正しいかも」と読者の頭に保留させてしまうことになってしまう。