官邸ドローン事件と『天空の蜂』

4月22日、首相官邸屋上に放射性物質福島県の砂浜の土)を入れた容器を搭載した小型無人ヘリコプター「ドローン」が墜落しているのが発見された。外国で相次いで重要施設へのドローン侵入が発生し、社会問題となっている矢先のことだった。「事件」として扱われ連日トップニュースで経過が伝えられた。ドローンの個別の製造番号から販売店、購入者を特定できると報じられた直後、「犯人」が警察に出頭したというニュースが入ってきた。反原発を訴えるために2週間前に官邸に向けて飛ばしたのだという。


この犯人は自身のブログで詳細に「犯行計画」を綴っていた。

ゲリラブログ参
http://guerilla47.blog.fc2.com/

読み応えがあり素直に面白い。主張は「反原発」ではあるが、既存の反原発デモとは相容れない気持ちが書かれている。

川内原発北側砂浜にある反原発テント
近づくと高齢者が2人・・・軽くあいさつ・・・
砂浜に穴を掘って糞尿をしてるのか・・・悪臭・・・
経産省前のホームレス小屋もだけど反原発のイメージを悪くしている・・・汚い
そもそもテント生活に何の意味があるのか・・・
原発施設内につながる地下トンネルでも掘っているのか・・・
恐ろしいな・・・左翼は・・・

http://guerilla47.blog.fc2.com/blog-entry-16.html

また「参考図書」として山野車輪の漫画を挙げており、ネットで単純に結び付けられる「反原発サヨク、リベラル」という者でもない。「事件」は「テロ」と騒がれ、犯人自らも「テロ」と言っているが、テロだとしたら「ロンリーウルフ型」のテロに入るものだろう。ブログを読むと、このささやかなテロ行為に試行錯誤する様子が面白い。ドローンに何をつけて飛ばすか、「サリン風」のもの、「炭疽菌風」のもの、と候補が挙げられる中から、最終的に選んだのが「福島の土」だった。ただの福島の土であっても、放射能マークがある容器に入れた時点で、「低線量放射性物質」として扱わなければならなくなる。報道でも「1μSvの放射性物質」と呼び、「土」とは決して言わない。その特徴を「自然界にはない」「ただちに健康に影響ない」と杓子定規な説明しかしない。笑ってしまう。原発事故で周辺地域に飛び散り、「自然に」採取できるものだろうに。そういったことは言わずに、「放射性物質を積んだドローンが首相官邸に侵入された」テロ行為であることが強調される。犯人が出頭し「福島の土」とネタばらししたところで、「福島の土」が「テロ」の凶器として使われたと報道によって結び付けられる。ほんと馬鹿らしい。最初から報道で「土が出てきて1μSvが観測されているが現在の福島第一原発周辺の区域と同等であるから危険なものではない」と説明しとけばよかったのだ。


犯人のブログには参考図書として東野圭吾の『天空の蜂』が挙げられていて、あ〜なるほど、と思った。

ゲリラブログ参 参考書
http://guerilla47.blog.fc2.com/blog-entry-41.html

『天空の蜂』というのはサスペンス・ミステリーで、あらすじをざっくり言うと、三菱重工自衛隊と開発した無人ヘリコプターが外部操作で乗っ取られて突然動き出し、福井県もんじゅ上空に静止、犯人から墜落させられたくなかったら日本の全原発を停止せよ、と脅迫が来て、警察が捜査する、犯人の真の目的は…という話。東野圭吾作品で一番好き。エンタメとしても面白い。311前はスポンサー的に、311後は福島への配慮的に、映像化絶対不可能なのが残念。(追記:後で知ったが「天空の蜂」は2015年9月に映画公開される予定という。驚いた)


タイトルの『天空の蜂』とは、作品内でもんじゅ上空で静止する無人ヘリコプターのことを指す。たしかこのヘリコプターの機体名も蜂に由来したものだったような。犯人の要求は、稼働中の全原発の停止。動機は、原発に無関心な国民に原発がない生活を体験させ、その上で原発が日本に必要であるか改めて選択させるというものだった。


翻って官邸ドローン事件の犯人。犯行に使われた小型無人ヘリコプター「ドローン」。ドローンはもともと雄のミツバチという意味の言葉だ。その羽音が小型無人機の飛行音とも似ているということで名前の由来となった。まさに「蜂」そのものである。犯人は、全原発が停止している時代に、原発を再稼働しないよう求めた。その目的は、福井県知事選の直前に、反原発を表明する事件を起こし、再稼働の是非を争点として注目させ、有権者に選択させるというものだった。


結果としては、小説の犯人は捕まったし、リアルの犯人も出頭して逮捕された。リアルの事件のほうは、事件発生後2週間、誰にも気付かれずに放置され、犯人の目的であった、福井県知事選はその間に現職勝利で終了し、何の影響も与えることができなかった。なんともマヌケなオチである。