『キラキラネームの大研究』を読んだ

キラキラネームの大研究 (新潮新書)』購入しました。
読んでみて驚いた。第一章で「光宙(ぴかちゅう)」についての記述で当ブログの「光宙」の記事が参照されていた。数行でチョロっと名前を出すだけでなく、3ページくらいにわたって内容が紹介されており、ブログ記事の主張に沿った形で、「光宙(ぴかちゅう)」という名前の非実在の可能性が記述されていた。こういうこと初めてなので嬉しさでそのページだけ何度も読み返してしまった。


以前書評記事を読んで「ほんとに『光宙』いると思ってんの?」とか「この目次テーマ、うちのブログ参考にしたんじゃない?」とか「今さらキラキラネーム否定論って目新しくもない本を書かれてもね」なんていう内容を書き殴ってしまった自分が恥ずかしい。申し訳ありませんでした。


作者は「光宙(ぴかちゅう)」を代表とする、ネットで叩かれてるような「DQNネーム」の子供は本当にいるの? という疑問から、最近の難読名の分析、難読名の歴史、漢字政策の歴史の調査を始める。この部分は非常に読み応えがあった。もともと編集者として漢字についての書籍に関わっていたりして、そういう意味で「専門」の方であった。こうした調査の結果、本来の意味とかけ離れたイメージで漢字を名付けに用いられる最近の傾向に警鐘を鳴らす。例として「膀胱」の「胱」の字など「にくづき」の漢字を、「月光」とイメージして子供に名付けてしまう、キラキラネーム名付け親の教養の無さを嘆く。現代日本では、中国から伝わる漢字に個人の勝手なイメージを付けて「感字」として使用する者が出てきているのだと。キラキラネームはその端緒だと。



いくつか気になった点。
筆者が分類したキラキラネームの命名の方程式として、「置き字を用いる」というものがあった。音としては読まない漢字を名前に入れる、ということだ。しかし例として挙げられていたのは「悠宇(ゆう)」と「結夢(ゆめ)」という名前だった。
筆者が言うように置き字を用いた名前というのはあるだろう。しかし例として挙げられた「悠宇(ゆう)」と「結夢(ゆめ)」という名前は、置き字とは違う方程式で命名された名前ではないか。
筆者の分類にはなかったが、これらの名前に使用されてる方程式は「分字」である。勝手に作った言葉だが、「悠宇(ゆう)」という名前は「悠」の「ゆう」という読みを「ゆ」と「う」に分けて「う」に当たる部分に「宇」を合わせた。「結夢(ゆめ)」も「夢(ゆめ)」を「ゆ」と「め」に分け、「ゆ」に当たる部分に「結(ゆい)」の字を「ゆ」と読ませて合わせた。「宇」も「結」も音として意味なく置かれているわけではなく、読みにも利用される漢字だ。1字では物足りない親が音を分けて付ける。
あと一つくらい、読んでて気になったことがあったはずだが忘れてしまったので思い出したら書き足す。いろいろ勉強になったし新書で読みやすいし参考文献リストもあるし非常に良い本でした。





「光宙(ぴかちゅう)」について

「光宙(ぴかちゅう)」についての章では、最後に「実在するという証拠あるなら連絡を」と挑戦状めいた情報募集をしていたところがシビれた。「ぴかちゅう」という名前に関するより詳細な情報が編集部や筆者のもとに集まりそうだ。楽しみ。
 
本書で取り上げられていたのは「光宙」中心で、亜流である「輝宙(ぴかちゅう)」という名前は取り上げられていなかった。「輝宙(ぴかちゅう)」とは産経新聞で一度「酷い名前」として取り上げられた名前で、「親学」の高橋史朗氏が一時期講演等で積極的に広めていた名前である。「親学」というのは子どもを育てるにはまず親を教育しなきゃいかんという発想で作られたサークルで、その活動内容に非科学的なことがあるなどといった批判を受けている。現自民党の保守派を名乗る議員の中にこの親学に傾倒している者も多く、安倍晋三首相もその一人で、2012年の安倍氏の講演で「ぴかちゅう」という名前を具体的に挙げて批判したのもその関連と思われるのだが、読売新聞記事の安倍氏発言の書き起こし文章では、親学の高橋氏が広めている「輝宙」ではなく「光宙」が使われていた、という点が自分としては非常に気になっている。果たして安倍氏が講演で取り上げたのは「光宙」なのか「輝宙」なのか。親学は未だに「輝宙」を批判してるのか、「光宙」に鞍替えしたのか。講演で安倍氏は「ぴかちゅう」の漢字まで指定して話したのか、書き起こした読売記者が勝手に「光宙」の漢字を当てはめただけなのか。気になる。なので「ぴかちゅう」伝説の親学「輝宙」ルートの流れを誰かに調べて書いて欲しかった。


あと「光宙(ぴかちゅう)」の系譜について、本の発売後、書き足した点があるので、ここで。2ちゃんねるのレスで指摘されていた「高野優」さんの育児エッセイ漫画について数年ぶりに調べた。2001年4月出版の「ニンプの玉手箱」という本の中に、「お腹の子の名前について娘が『ぴかちゅう』がいいと言ってきた」という笑い話が書かれていた。漢字は指定されていない。この本は雑誌連載を書籍化したものであるらしいので、初出は2ちゃんねるの「光中(ぴかちゅう)」より遡れるかもしれない。