静岡新聞には社説と別に、複数の政治・経済学者が曜日ごとに持ち回りで執筆する「論壇」というコーナーがある。内容は自由で、自由すぎることもあり、かつて屋山太郎さんが、公明党が「在日外国人の参政権問題」を扱うのは創価学会の韓国での「布教禁止措置を解く」ため、と書いて2chで話題になったこともある。
最近の政治系の論評は菅政権批判ばかりで、各人それぞれの視点から「菅やめろ」の主張をするのだが、その中でも今日15日の今井久夫さんの論壇がすごかった。
いまの菅首相は「ペテン師」どころではない。「妖怪」扱いだ。ペテン師は人間だが、妖怪となるとこの世のものではない。人間以外もしくは人間以上の存在となる。
人間でないなら、人間の世界で通用するルールや規格では間に合わない。つい先頃まで菅首相はトン死寸前まで追いつめられていた。それが不死鳥の如く甦り、いまでは元気そのものだ。永田町は菅ペースを基調として回転しているといっても差しつかえない。
それで政治が正常化し、安定化するなら結構だ。しかし永田町は逆に地盤が低下し、各所に液状化の現象が見られる。それは困る。そんな総理大臣は一刻も早く辞めて貰わなくてはならない。
自民党はじめ各野党、いや政権を担う民主党でさえ、菅首相の早期退陣を求め、全力投球しているのはそのためだ。しかし投げる球のことごとくが打ち返され、野党の失点、与党の得点につながっている。
なにしろ人間が投げているのだから、魔球ではない。ところが打つ方は妖怪だ。真芯にバットが当たり、快打の連続となる。このまま試合が続けば野党の大敗は免れない。
その敗因を探れば、野党は普通の投手だと思って戦っているが、相手は妖怪だという認識がない。だから傷が深くなる一方だ。この流れを立て直すためには、既成概念をサラリと捨てて、妖怪退治の新陣容と新戦略で臨む覚悟がなにより必要だ。
ここで思い出すのが第2次世界大戦でヒトラーに対して連合軍側が取った作戦だ。はじめヒトラーの奇略奇襲のため連合軍は連戦連敗だった。ここでヒトラーは常人ではないと気がつく。遅まきながらヒトラーの人間研究がはじまる。彼の出自からはじまってその成長過程、その人生遍路、趣味、食物、女性の好みに至るまで、徹底的に調べ上げた。そのデータを基礎に戦略を練り直し、ついには彼を追いつめて自殺させるに至った。随分イキの長い作戦だ。しかしこのくらいのハラがなければ妖怪退治はできない。
もう菅首相の前途はいくばくもない。そんな菅研究に取りかかる余裕も時間もないと野党はいうだろう。それが甘いというのだ。菅首相は早期退陣どころか任期一パイ務めるつもりだ。いや、日本から原発がなくなる日まで権力にしがみつくのが本心かもしれない。妖怪の妖怪たる所以だ。
もし江戸時代の浮世絵師に時事漫画を書かせたら、菅首相変じて巨大な蜘蛛、あるいは不気味な大百足の化身として版を重ねたに違いない。いまの庶民は単純だ。浜岡原発全面停止要請や、ストレステスト導入発言に無邪気な拍手を送っている。
国民の健康を考えれば原発の安全性は大切に決まっている。しかし経済や産業の点ではエネルギー源としての原発依存はすでに日本の国策になってから久しい。その存廃には慎重な配慮と、長期の議論が欠かせない。菅要請やその発言は思いつきのきらいがある、少なくとも、近い将来の「脱原発を争点とする総選挙対策」の臭いがプンプンする。極言すれば菅首相の国民向けの選挙演説だ。
菅首相はかくの如くしぶとい。それに加えて用意周到だ。隅々まで計算されている。とにかくただものではない。それを向こうにまわして一戦を挑むからには、従来の国会対策や駆け引きは無用だ、与野党志を一にするものどもが集団的自衛権を発動し、全智全力を挙げて体当たりするより外はない。
「妖怪」「蜘蛛」「大百足」と酷い言われようだが、「ゴキブリ」と例えられないだけまだマシなのかもしれない。ヒトラーを持ち出した部分の印象が強すぎて、与野党総出で「菅を追いつめて自殺させろ」「暗殺しろ」と暗に言ってるように、受け止められた。前に産経新聞が「菅首相＝ヒトラー」に例えたことがあったが、それとはまた印象が違う。非常に攻撃性に富んでいる含みだ。
それにしても「思いつき」と言った後に「用意周到」「計算」と言ったりとにかく忙しい文章で、今井さんはまさに「全智全力を挙げて」菅首相を批判したつもりなのだろう。
この手の批判で、菅首相は「トン死寸前まで追いつめられていた〜それが不死鳥の如く甦り、いまでは元気そのものだ」みたいな意見がよく出てくるけど、元気そのものだったら今頃とっくに重要法案可決させてるんじゃないのか。与党内で意見まとめられず、支持率下がる一方で「元気」って表現はない。菅政権のどこを見て「元気」としてるのだろう。
「このまま続けば野党の大敗」とも言っているけど、どんなシナリオだと野党大敗、菅勝利になるのか聞いてみたい。脱原発路線がすすんだとしても、民主党が勝利することはないだろうに。
