「この世界の片隅に」にまつわる陰謀論

アニメ映画「この世界の片隅に」のファンがいろいろとめんどくさい人たちになっている。「この世界の片隅に」をテレビ(民放)が取り上げないのは、のん(能年玲奈)の独立騒動が原因で、事務所が圧力をかけているからだというのだ。
そんな意見に対して、やまもといちろう氏が、別にテレビが取り上げなかったのは普通じゃね?的な意見を書いた。

能年玲奈「のん」騒動にアニメ作品「この世界の片隅に」が引っ張られている件|やまもといちろうコラム - デイリーニュースオンライン
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それについて、ネットではやまもといちろう氏を批判する意見が殺到した。

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よく分からないのは、「この世界の片隅に」の陰謀論を語っている人たちの、テレビでの映画宣伝についての考え方だ。能年玲奈と事務所の対立がなかった場合、どんなふうにこの映画をテレビが取り上げていたと思っているのだろうか。陰謀論を語っている人たちは、どんなふうにこの映画をテレビで宣伝してほしかったのだろうか。


例えばこうだろうか。「めざましテレビ」の芸能コーナーで、能年玲奈のアフレコの様子を定期的に流したり、「ZIP」の芸能コーナーで試写会での能年玲奈の舞台挨拶を流したり、上映1週間前に「火曜サプライズ」や「ぴったんこカン・カン」などのバラエティ番組に能年玲奈が出ずっぱりになって番組終わりに映画の宣伝をさせたりしてほしかったのだろうか?


確かに「君の名は。」では声優を務めた神木隆之介上白石萌音が上記のようなことをやらせてもらって、映画の宣伝をしてきた。


しかし、それができたのも神木隆之介上白石萌音が大手芸能事務所に所属していたからであり、それぞれの芸能事務所が必死になって「格安で出演しますから宣伝のためテレビ出演させてください」などと必死に売り込んだ結果だろう。それまでのテレビ局の番組制作と芸能事務所との間で築かれてきた関係が、こういう宣伝出演に生きるのだろう。


能年玲奈は現在は事務所から独立したと主張しており、テレビ出演のために事務所が動くことはない。個人で出演交渉をする必要がある。


そもそもキャストの起用の時点で、こういう宣伝のことまで考えたものになってる作品は多いはずだ。その時に流行している有名人を起用して、芸能メディアがニュースとして取り上げやすいようにするのが普通。当たり前だがポジティブに話題の有名人を起用するのが通常だ。炎上宣伝目的で、ネガティブな話題の有名人を起用するものもあるだろうが、そうすると作品自体に変な色がついてしまうから、そういうことが行われるのはもともと内容が色物である作品が多いだろう。


製作にどんな企業が関わってるかも宣伝に重要だろう。東宝とかワーナーとか大手映画会社の作品なら、知名度ない監督のアニメ作品でも、他の人気作品の独占映像などとのバーターで時間が取れるだろう。でも今回は違う。
テレビ局出資の作品なら、もちろんその局で必死に宣伝されるだろうが、それも今回と違う。
原作の知名度があれば「聲の形」のように公開前に情報番組でチェックされたりするだろうか。しかし「この世界の片隅に」は、一部で知名度は高くとも、三大少年漫画誌で大ヒットを飛ばした「聲の形」には遠く及んでいない。(「聲の形」は声優に大手事務所女優の松岡茉優を起用して舞台挨拶など芸能メディアで取り上げやすくもしている。)


以上のように、「この世界の片隅に」が、民放の情報番組の芸能コーナーやバラエティ番組の映画宣伝枠で取り上げられなかったというのは当たり前だろう、と考えているのだけど、「能年玲奈への事務所圧力のせいで民放で取り上げられない」という人たちは、その辺りを細かく説明してほしいところ。そもそもどんな宣伝を民放に期待していたのか。「この世界の片隅に」と同様の状況にある映画の名前を具体的に挙げて、「あの映画は民放で宣伝してもらえたのに、今回は宣伝してもらえなかった」とか言ってもらえれば、ああ事務所トラブルの影響強いのかなぁと思いやすいかな。他の映画の宣伝と比較してもらいたい。


この世界の片隅に」のプロデューサーや監督が「とある事情で民放テレビで取り上げてもらえない」と語っていたが、元から芸能メディアで宣伝してもらおうとするつもりなら、もっと他の芸能人も起用すればよかったのでは、と思わずにいられない。別に主演ののんを交代させろというわけではなく、相手役や重要脇役に人気俳優たちを使えばよかったんじゃないかな。

【レポート】『この世界の片隅に』公開記念!ネタバレ爆発とことんトーク!@新宿ロフトプラスワン(2016/11/20) - 忘れられた庭の静かな片隅
http://los-endos.hatenablog.com/entry/20161121/1479734449
とある事情でこの映画は民放各局のテレビで取り上げてもらうのがむずかしい。

ここまでが公開前の宣伝の話。
いくら宣伝まみれのテレビといっても、公共の電波を使う放送機関。
テレビは結果を報じるのは得意だ。今流行ってるもの、ヒットしたものには、しっかりと唾を付ける。
今までも、オタクの間で流行った「ガルパン」や「キンプリ」などのアニメ映画を、社会現象として後追いで放送した。どれも公開前に特に芸能メディアが宣伝していなかったが、それに文句をつけるファンはいなかったろう。
この世界の片隅に」が小規模公開ながらトップ10に入り続ける現象は十分に放送する価値があるとして、取材依頼をしてくるテレビ局があっても、「手のひら返しだ」と揶揄するようなことではない。