自民党・大西英男議員への恣意的報道。「がん患者は働かなくていい」とは言っていない

 自民党所属国会議員の失言問題。普段なら自民党支持者からのマスコミ批判が起こるところだが、今回は自民党の若手ホープで安倍首相のお気に入りである三原じゅん子議員に対するヤジだったことから、誰も大西英男議員の弁護をする者がいない。そんな状態であるからこそ、ここでメディアの報道の仕方の問題について指摘しておきたい。
 
 多くのマスコミでは大西英男議員の発言について

「(がん患者は)働かなくていい」

と「がん患者は」という部分をカッコつきで報じている。つまり大西議員は発言した言葉は「働かなければいい」とだけで、「がん患者は」とは言っていない。
 
 現在では、カッコつきすることなく「がん患者は働かなくていい」と見出しに出している新聞も出てきている(記事本文ではカッコつき)。

「がん患者は働かなくていい」発言、大西氏謝罪 : 政治 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)2017年05月23日 07時24分
http://www.yomiuri.co.jp/politics/20170522-OYT1T50105.html

 
 大西議員が「働かなくていい」と発言(野次を飛ば)したのは、三原じゅん子議員が受動喫煙被害を訴えるがん患者への就労支援として飲食店の全面禁煙を主張するスピーチしていた時である。
 それを三原議員は、「がん患者は働かなくていい」という意味だと受取り、その場で反論。失言として捉えられ報道された。
 
 大西議員は、後の釈明で

「飲食店の従業員の受動喫煙を議論した中で、喫煙可能な店で働かなくてもいいのではないかという趣旨であり、がん患者が働かなくてもいいという趣旨ではない」

と、発言の真意を話している。この真意については嘘はないだろう。発言前後の録音音声も出ているが、最近の受動喫煙対策としての飲食店での全面禁煙政策を巡る自民党内での攻防について知識があれば、発言の真意は間違えようがない。
 
 しかし、マスコミは「(がん患者は)働かなくていい」と、まるで「がん患者は働くな」と発言したかのように報じている。このようなマスコミの報じ方は、発言の真意を正確に捉えてなく、恣意的な編集である。
 もしカッコつきで大西議員の発言を補足する必要があるならば

「(タバコが吸える店で)働かなくていい」

とするべきであり、三原議員のスピーチへの野次ということを考慮にいれても、

「(がん患者は喫煙可能店で)働かなくていい」

とまで書くべきであった。
 
 
 そこまで正確に記した上で、大西議員の発言の問題点を指摘する必要がある。
 大西議員の主張は、がん患者に限らず「タバコの煙が嫌いな人は最初から全面禁煙の店を選んで働けばいい。無理してタバコが吸える店で働く必要はない」というものである。
 職業選択の自由があるのだから、禁煙の職場が選べるだろ、喫煙可の職場を選ぶのは自己責任だろ、という話である。
 
 しかしいくら職業選択の自由が保障されているとしても、誰もが職場を本当に自由自在に選んでいるわけではない。実際には勤務地や勤務時間、給与などさまざまな条件から、「そこでしか働き場がない」という人が少なくないわけである。ましてやがん患者ならさらに条件が厳しくなる。タバコの煙という条件がなければ、働く場所の選択肢が広がる可能性があるわけだ。現在、「そこしかないから」と仕方なく喫煙可能な飲食店で働いているスタッフの健康も守られることになる。
 
 大西議員の発言は労働者の受動喫煙の問題として捉えられるが、それを「がん患者は働かなくていい」と報じると、がん患者への差別問題と表面的に捉えられて終わってしまわないか。
 




関連:2016年の大西英男議員の「巫女さんのくせに」発言問題
http://d.hatena.ne.jp/rabbitbeat/20160505/1462459266