「反日」から「反安倍」へ。「嫌韓」から「反文在寅」へ

 「ネトウヨ」言論の微妙な変化について。

 

嫌韓・嫌中言説のうち「嫌中」が市場から姿を消したのにお気づきでしょうか。海外メディアが「中国はAI軍拡競争ですでにアメリカに勝っている。GDPも2040年までにアメリカを抜く」と報道していることを知らなくても「もう中国には勝てない」感は無意識のうちに日本人に沁みついています。 https://t.co/wQ9S19D8lB

内田樹 (@levinassien) September 13, 2019

 

 

10年前に盛り上がった「チベットを守れ」は北京五輪後にはすっかり鳴りを潜め、対中国のスローガンは今や「ウイグルを守れ」「香港を守れ」へと変わっている。といってもウイグル問題も香港デモも別に「ネトウヨ」の専売特許でもないので、「嫌中」言論ではなくなっている。

メディアが嫌中を煽っていたのは「爆買い」(2015)が流行語になった年までで、それ以降は文化的に対等な国、もしくは先進技術導入のお手本の国として紹介している。批判するにも対等以上の国としての批判だ。テレビで毎日のように中国の衝撃動画が放送されているが、昔は「中国だから」こんな駄目なことが起きるという演出がついていたが、今はそんなことなくなっている。

 

一方で、「ネトウヨ」の嫌韓言論も変化している。

昔は「韓国」全体を指し、主語を大きくして「韓国は~」「韓国人は~」と罵詈雑言をぶつけていたのに対して、今は「文在寅政権は~」「文在寅の支持者のリベラル・進歩派は~」とターゲットを絞っての批判にシフトしている。これは韓国国内のデモで起きている「私達は『反日』ではなく『反安倍』だ」というスローガンに呼応したものでもあると思う。

 

テレビ朝日の『モーニングショー』では、番組コメンテーターの玉川徹のコーナーにて、日本国内の嫌韓盛り上がりの例として、武藤正敏高橋洋一などの本を「嫌韓本」としてズラリと並べたところ、どこぞの執筆者か出版社かからクレームが入ったらしく、玉川は「並べた本は『嫌韓本』ではなく『韓国政府批判の本』や『文在寅批判の本』でした。謝罪します」と言って頭を下げることとなった。

リンク

hochi.news


テレビ朝日・玉川徹氏「極めて不適切でした」と謝罪 嫌韓本討論で紹介映像に誤り : スポーツ報知
https://hochi.news/articles/20190912-OHT1T50060.html

 

私なんかは、今までネットで培われてきた「嫌韓本」批判の脈絡から言って、紹介された本をまとめて「嫌韓本」の括りに入れて十分だと思う。が、しかし、確かに個別にそれぞれの本が置かれれば単なる「韓国(政府)批判の本」と受け取るだろうし、「嫌韓本」の確固たる定義が作られてるわけではない。

思うに「嫌韓本」とは、書店の1コーナーに埋め尽くされる何冊もの「韓国批判の本」をまとめて指したものであり、その状態を指す。1冊1冊を個別に指して「これは建設的な韓国批判の本で、これは嫌韓本」と言うものではないのだ。同著者、同出版社が同時期に書籍を出し書店の棚を占拠する。アンチ韓国が社会現象となって盛り上がっているように見せるための、特定勢力の作戦でもあるのだろう。書店を使ってブームを盛り上げるというのは、別に「嫌韓」に限らず行われてきたことである。それをここ数年は「嫌韓」が利用しているという話だ。それだけの経済的、政治的な力がある。

 

その「嫌韓」も今は「ヘイト」批判を受けないように理論武装し始めたというのが最近の動向であり、「嫌韓」ではなく「反文在寅」「反革新」なのだ、とターゲットを絞っている。テレビのワイドショーでは、文在寅大統領を批判する韓国野党の自由韓国党議員や、朝鮮日報等の保守系韓国メディアの言説を多く引用するようになった。TBSの『ひるおび』では、コメンテーターの八代英輝が韓国の革新系メディアのハンギョレを指して「朝日新聞と同じ反日メディアだ」と批判した。

 リンク

www.daily.co.jp

八代弁護士 朝日新聞を「反日三羽ガラス」暴走&お詫び ネット沸騰トレンド1位に/芸能/デイリースポーツ online
https://www.daily.co.jp/gossip/2019/08/02/0012572307.shtml

 

つまり韓国批判に党派性ができてきた。これは、アメリカに対して日本の保守系政治家が「民主党大統領は反日傾向があるが共和党大統領は親日なのだ」と言ったりするのと同じようになってきているということだ。

これは良き傾向である。私は兼ねてから、韓国国内の「反日」運動を伝える日本の報道で、デモ主催者名を「韓国の市民団体」などと曖昧にしか伝えず、個別の団体名を伝えてこなかったことに大いに不満を持っていた。

rabbitbeat.hatenadiary.org

保守系市民団体の「反日」運動と、革新系市民団体の「反日」運動は、傾向が違うのではないか、と思っていたからだ。単なる「反日」としてくくるのではなく、どんな団体がどんな考え方でデモを起こすのか分からなければ、理解も納得もできない。それにはまず正確な団体名の報道が必要なのだ。韓国国内では普通に固有名詞で報道されているデモの主体も、日本の報道では曖昧になってしまうのが不満だった。今になって、その不満がようやく解消されるかもしれないという点には喜んでいる。

安倍政権は、「嫌韓反韓)ではなく反文在寅なのだ。おかしいのは文在寅大統領なのだ」と強く印象付けようとしており、メディアもそれに乗った報道を繰り返している。いくつかのメディアでは保守系韓国野党の自由韓国党の議員を次期大統領候補として人物紹介までしており、テレビを通じて「日本のために自由韓国党を応援しよう」というムードが作られている。

このままいけば、韓国政治に対する日本メディアの報道は、より細かく党派を説明したものになっていくだろう。例えば、最近の韓国の地方議会で立て続けに成立している日本製品排除条例も、単に「韓国の一地方議会が可決した」と報じるのではなく、「文在寅大統領の与党、共に民主党が多数を占める地方議会で可決されました。野党の一部は否決に投票しました」などと報じるまでになるのではないか。